blog in 箪笥

やっぱりとりとめもないことを

オタク言葉を面白がる。「練りをしまつ」の謎、「結束した」の面白さについてについて。

オタクは言語に聡い。というのは美化しすぎで、何がしか文字情報に執着のあるオタクがテキスト主体のSNSに張り付きがちだというのがより正しい。

だから、オタクが作った言葉には面白いものがたくさんある。

いくらでもあるんだけど、最近ふと気になった言い回しは「結束した」ってやつです。

「ぼっち・ざ・ろっく!」っていう漫画・アニメがあって、そこに出てくるバンド(ロックバンド、とかのバンド)の名前が「結束バンド」っていうのね。 それで、「結束〇〇」みたいな関連イベントが色々あって、それに参加することを「結束する」って表現する。

面白いのはこれが全然珍しい表現じゃないってことで、読んでくださっているみなさんがTwitterに明るい方だとすると、「別に変わった表現じゃないじゃん」って感じると思う。

他にも例えば「響け!ユーフォニアム」を見ることを「響く」って言ったりして、類例がたくさんある。

この現象を説明するとすると「作品やイベントのタイトルの一部の動詞を以て作品・イベントに関わる行為を示す」表現だと言えると思う。

これは一種の換喩(メトニミー)ではなかろうか。換喩っていうのは、「Aに関係する別のものBによってAを指す」表現のことで、例えば「鍋」で鍋料理を指すみたいなのが有名だと思う。「オタク」という言葉も出自としては換喩と言えそう。まず「お宅」で「あなた」を指すのが換喩で、互いを「お宅」と呼び合う奴らのことを「オタク」と呼ぶのも換喩。

そんなふうに換喩は比較的ありふれた現象ではあるけど、「結束する」みたいな感じで文字面から動詞を取ってきて…というのは面白い気がする。それとも探してみればオタク文化以前にも似たようなことはあるのかな。「整う」とか若干そのケがある気もする。

動詞の話繋がりで、変な動詞として「勝つる」っていうのが使われている。「これで勝つる」みたいな。僕の周囲のオタクが使ってるだけかもしれないけど…。

これはなんか活用が変になってる。オタクはすぐに活用をぐちゃぐちゃにする。

僕の解釈としては、「勝つ」を外来語みたいな感じで捉え直して、それに「る」をつけて再動詞化してるんじゃないかと思うんだけどどうだろうか。

「ジャムる」「ディグる」みたいなね。そういう見慣れない場所に「勝つ」を追いやることによってあえての拙さを演出するみたいなことなのかなと思いました。オタクは拙さが好き。

しかも「勝つる」って「〇〇しか勝たん」っていう言い回しを多分下敷きにして、「〇〇しか勝たん」=「〇〇が最高である」→「勝つ」=「いい状態である」みたいな意味の類推を行なっている気がする。どうなんでしょうね。

「勝つ」=「良い」といえば「最高の気分だ」ということの表現として「優勝する」という言い回しがあったけど、これって「〇〇しか勝たん」と関係あるんですか? そのへん有識者がいらっしゃったら教えてください。

「よさみが深い」っていうのもあった。これは[形容詞語幹]+[み]で名詞化する(うまみ、深み…)というやつの変則バージョン。 [形容詞語幹]+[そう](うまそう、深そう…)のような場合に、語幹が一音の場合は語調を整えるために謎の「さ」が入る(よさそう、なさそう…)けど、それを真似して「み」に応用したのが「よさみ」だと思われる。

僕の周りでは「よさみの深まり」なんていう言い回しも聞こえる。これはかなりなんというか、濃いオタクの香りがする。 より無臭に近い「よき」っていう表現が最近(?)流行ってるけど、これも形容詞を名詞化して使っているという点では似ている。「よきですね」なんていう。

形容詞を排して全部名詞にしてしまって、簡単な助動詞や補助動詞でつなげていくようなシンプルな言語が希求されているのかもしれない。 社会全体としてシンプルな文法が選択されていく先端にオタクが位置しているのか、それともシンプルな文法をあえて選択することによって拙さを演出しているのか…。

そう言えば、これは関西方言なのかオタク言葉なのか判別できないんだけど、僕の周囲の話し言葉として「あかんすぎる」というのがある。「せんすぎ」というのもある。「掃除せんすぎて部屋が終わった」みたいな。

[形容詞/形容動詞語幹]+[すぎる](高すぎる、静かすぎる)の変形で、関西方言としては形容詞の活用を失ってしまった「ん」=「ない」を無理に語幹の位置でも使ってしまっている。

さらには名詞でも使っちゃえて、「京都すぎる」みたいにも言える。ここまでくるとさすがに明らかに若者言葉であろうなという感じがしてくる。

これもなんか、文法シンプル化の潮流を感じる例でした。

最後に「練りをしまつ」について言わせてほしい。これは「寝りをする」ということで、寝ることを指す。「します」→「しまつ」については口足らず化で、これもオタク言語で頻出する。よく知らんけど、本来舌とか唇が接触すべきでないところで接触させようという風潮がある。「す」→「つ」もそうだし、「モタク」(オタク)とか「ぽれ」(おれ)とか。 不可解なのは「寝りをする」の方。「寝をする」ならわかる。動詞を名詞化しているだけだから。「釣る」=「釣りをする」と一緒。

それで考えてみると、まず「寝る」の活用を、本来は下一段活用(寝ない/寝ます/寝る/寝るとき/寝れば/寝ろ)であるところを四段活用(寝らない/寝ります/寝る/寝るとき/寝れ)に置き換えて、その上で連用形を使って名詞化して「寝り」になっている。(c.f. 釣り)

四段活用は一番基本的な活用で、その他の活用が四段と混同されるみたいな現象は起きてるぽいので、これもやっぱり拙さの演出で四段が(無意識に)選ばれているということになろうと思う。

オタクの言語感覚って、鋭敏で、面白くて、そして嫌だね……。